早稲田大学政治経済学部ゼミ生の卒業論文概要書です。
新聞報道は「あの日」をどう振り返るか
~朝日と読売における8月6日と8月15日の社説分析
Author: K.S. (2018年3月卒業)
研究概要
研究目的
本研究の目的は、日本における終戦報道が時代とともにどのように変化してきたかを知り、その変化の理由を考えることである。対象とした新聞記事の単語や文を分析し、「単語や表現」「書き手と読み手の距離」「記事が扱っているテーマ」の3点に注目し考察を行った。その結果、終戦報道は1970年から1980年を境に変化していることがわかった。そして、変化の原因として、戦争を体験していない「戦後世代」の登場を考えた。
研究の背景
研究テーマのきっかけは、Olick(2014)が、“Journalism and Memory”のなかで、ジャーナリズムが人や社会の記憶に影響を及していることを知ったことである。また、Olickは同書のなかで、ジャーナリズムは人々の出来事に対する記憶を更新させることができるとも述べていた[1]。さらに、Jill(1999)は、記念日報道こそが人々が過去を振り返る最もよい機会だと述べていた[2]。日本における有名な記念日報道といえば、終戦報道である。たしかに、日本の終戦報道も、戦争を忘れさせないことが目的のように思える。しかし、終戦報道は歴史が長いため、全ての時代においてそのような目的で書かれたのか疑問に思った。そこで、終戦報道の変遷についての研究を行うこととした。
研究の方法と結果
分析対象としたのは、『朝日』『読売』朝刊の社説で、時間的制約から記事の時期を限定した。分析年度としたのは、1950年、1955年、1960年、1965年、1970年、1975年、1980年、1985年、1990年、1995年、2000年、2005年、2010年、2015年である。また、収集する社説は、8月6日と8月15日の2日間とした。この2日間を選んだ理由は、両日が日本を代表する戦争を振り返る日だからである。結果、対象となった記事数は、『朝日』では26件、『読売』では21件だった。
分析方法として選んだのは、批判的談話研究のディスコースの歴史的アプローチである。本分析方法を用いる際、参考にしたのが、Wodakら(2018)による『批判的談話研究とは何か』[3]だ。本書では、ディスコースの歴史的アプローチについての説明で、ディスコース・ストラテジー集を作成する手法を紹介していた。そこで、本研究においても、それぞれの期間についてディスコース・ストラテジー集を作成した。ディスコース・ストラテジー集を作成したのち、特徴となる単語や文を抜き出すことを行った。また、単語や文を抜きだす際、注目したのが「単語や表現」「書き手と読み手の距離」「記事が扱っているテーマ」の3点である。
考察と結論
はじめに、結果で注目した3点「単語や表現」「書き手と読み手の距離」「記事が扱っているテーマ」に対する考察を、それぞれについて行った。その結果、記事の最も重要な転換期は1970年から1980年であることがわかった。そして、再度考察から考えた結果、その原因は「戦後世代の登場」ではないかと考えた。考察の後半では、戦後世代について深く掘り下げ、記事の変化と関連させながら新しい論点を述べた。
[1]Olick,J.K.(2014).Reflections on the Undeveloped Relations between Journalism and Memory Studies.Zelizer, B., & Tenenboim-Weinblatt, K.(Eds)InJournalism and Memory.
[2] Jill Edy, B. A., & Edy, J. A. (1999). Journalistic Uses of Collective Memory. Retrieved from https://academic.oup.com/joc/article-abstract/49/2/71/4110077
[3]Wodak, R&Meyer, M.(2018).『第1章批判的談話研究 歴史、課題、理論、方法論』Wodack, R.&Meyer, M.編集, 野呂香代子,神田靖子,嶋津百代,高木佐知子,木部尚志,梅崎敦子,石部尚登,義永美央子訳. (2018). 『批判的談話研究とは何か』三元社.