メディアイベントの視点から見るソーシャルゲーム

本ラボを修了した、早稲田大学大学院 政治学研究科ジャーナリズムコース 修士課程修了生の論文概要書です。

メディアイベントの視点から見るソーシャルゲーム―ツイッターのテクスト分析を通じて

Author: L. (2018年3月修了)

研究目的

今やソーシャルゲームは人々の生活に浸透した。しかし、課金や依存など様々な社会問題も引き起こしている。そして現代の複合的メディア環境の下ではコミュニケーション様式も変形しつつあり、ゲームというメディアを通じたコミュニケーションもまた同様である。本研究は現代のコミュニケーション特性の探究を念頭に置き、プレイヤーたちがゲームのメディアイベントを通じてどのようなコミュニケーション行動をとっているかを分析することにより、現代におけるコミュニケーションのあり方を探ることを目的とする。本研究は現代のメディアイベント論に新たな視点を提示し、またゲーム論のプレイヤー分類においても新たな視点をもたらす成果を得た。

研究の背景と意義

2000年代中半からまず登場したのは、PCやガラケーをベースとしたSNS会員登録のネットワークを利用して行われた旧式ソーシャルゲームであった。しかし中川(2017)によると、スマートフォンの普及に伴い、旧来のソーシャルゲームは衰退し、2012年の『パズル&ドラゴンズ』以後の主流はネイティブアプリ型へと移行している[1]。すなわち、現在のソーシャルゲームは当初のようなソーシャル性を前提としたものでは無い。しかし、なぜ依然として「ソーシャル」と呼ばれているだろうのか。

また、これらのソーシャルゲームの特徴として挙げられるのは、「イベント」である。ダヤーンとカッツ(Dayan & Kats 1996)はテレビ時代に顕著となった「メディアイベント」を論じ、新たな地平を拓いたが[2]、ソーシャルメディア上で展開される「イベント」は、旧来メディアにおけるイベントとの異同を併せ持つ、新たな分析対象となりうる空間を構成している。

これらの問題を踏まえて、本研究ではスマートフォンゲームである『Fate/Grand Order(FGO)』のイベントを研究対象とし、その上で、リチャード・バートル(Richard Bartle)のプレイヤー分類理論[3]を組み入れ、メディアイベントの視点からソーシャルゲームのソーシャル性のあり方を分析した。

この目的に沿い、本研究ではリサーチクエスチョンとして「ゲームイベントはツイッター上でどう語られているのか」、と「その語りの中に、ソーシャル性が伴っているのか」、そして「ゲームプレイヤーの間に、どのような関係性が見られるのか」の三点を立てた。

研究の方法と結果

研究方法としては、本研究はツイッター上でのコミュニケーションを対象に、内容分析と質的テクスト分析を併用した。研究対象として、『Fate/Grand Order』というスマートフォン対応のネイティブアプリゲームを選択した。選択理由を以下に挙げる。まず『FGO』は今や経済収益面でも大成功を得たゲームである[4]。そして各種イベントが豊富なため、いつもツイッター上で盛んに議論されているという特徴があり、多量なデータを収集できる。さらにゲーム内で基本的にプレイヤー間の直接交流は存在しないため、ツイッター上の動向は本ゲームがもたらすソーシャル性の適切な分析対象である。本稿は特定のイベント「バトルインニューヨーク2018」を対象にし、キーワード「ギル祭」を使って9/22から10/05までの間の計92,687件のツイートを収集し分析した。

内容分析の結果として、ツイッターでは様々な話題が取り上げられていることが判明し、中でも二次創作の類が最も多いことがわかった。これによりソーシャルメディア内での複合メディアの存在が判明し、また課金という行為自体がコミュニケーションの媒介手段となっていることも明らかとなった。また質的分析の結果として、メディアイベントとしてのゲームイベントはメディアイベント論の中の二種の脚本特性――<競技>と<制覇>――を備えていることがわかった。そして観衆であるゲームプレイヤーたちも積極的にコミュニケーションを行い、「戦友的」関係を築き上げていることが判明した。

考察とまとめ

本研究の分析対象を通じて判明したのは、ゲームを媒介にしたツイッター上のコミュニケーションは、イラスト、動画または課金など、さらに多様な「メディア」により媒介されているということである。そしてソーシャルメディア時代のメディアイベントにおいて、二次創作で見られる<競争>またはイベント成果にまつわる<競争>は、ゲームを媒介としたコミュニケーションの目的化をもたらすという、「ソーシャル」性を導出している。また<達成>も同じく、他のプレイヤーとの交流が最終目的であると推測できる。この場合、ゲームプレイヤーたちはメディアイベントの観衆であると同時にその主演者でもあり、メディアイベントの脚本に乗じて積極的にコミュニケーションを取っていることが判明した。

そしてバートルの理論に沿って解釈するならば、異なるタイプのプレイヤーの間の関係性にも変化が生じていた。高得点を目指す「アチーバー」タイプのプレイヤーと、他人と交流することを目的化した「ソーシャライザー」タイプのプレイヤーとの間には、本来あるまじき友好的な関係が築かれていた。

本研究は現代のソーシャルゲームにおけるソーシャル性のあり方について検討し、メディアイベントの観衆の位置づけと役割変化の可能性及びプレイヤータイプとその関係性の変化を提示した。しかし、今回得た結論がどの程度普遍性を持つかを検証するうえでは、今後さらなる実証が必要であろう。


【参考文献・脚注】

[1] 中川大地,「ふたつの『GO』が照らす〈空間〉と〈時間〉ー『Pokemon GO』『Fate/Grand Order』が体現する脱ソーシャルゲームの道筋」『ソーシャルゲームの現在ー『Pokemon GO』のその先』(青土社,2017),87-88.

[2] Dayan, D., Katz, E., & Davis, S. G. (1993). Media events: The live broadcasting of history. Harvard University Press.(=1996, 浅見克彦訳 『メディア・イベント――歴史をつくるメディア・セレモニー』青弓社.)

[3] Bartle, R. (1996). Hearts, clubs, diamonds, spades: Players who suit MUDs. Journal of MUD research, 1(1), 19.

[4] 2018年11月現時点まででダウンロード数1500万を突破し、2017年度『FGO』の国内課金総額は896億円で、総合第二位を占めている。

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