政治的同質性を媒介するインターネットミーム〜#MAGAをめぐるTwitter議論のネットワーク分析から

本ラボを修了した、早稲田大学大学院 政治学研究科ジャーナリズムコース 修士課程修了生の論文概要書です。

Author: L.R. (2019年3月修了)

(1) はじめに

近年、民主社会の危機が叫ばれている。対立する社会集団同士が、それぞれの正義を主張し、人々は問題を巡って分断を深めている。この要因そして分断の主戦場と目されているのはソーシャルメディアであり、そこで分断に寄与していると思われるメディア因子の一つが「インターネットミーム(以下“ミーム”)」である。

本稿は、健全なデモクラシー社会のあり方を念頭に置き、ソーシャルメディアサイト「ツイッター」において、近年、民主社会の危機が叫ばれている。対立する社会集団同士が、それぞれの正義を主張し、人々は問題を巡って分断を深めている。この要因そして分断の主戦場と目されているのはソーシャルメディアであり、そこで分断に寄与していると思われるメディア因子の一つが「インターネットミーム(以下“ミーム”)」である。

本稿は、健全なデモクラシー社会のあり方を念頭に置き、ソーシャルメディアサイト「ツイッター」において、ミームが媒介する政治的同質性現象の有無を明らかにすることを目的とした。そのために、次の2つのリサーチクエスチョン(RQ)を設定した:
[RQ1]同じオリジナルアイテムを有するミームが異なるコミュニティにおいて、どのように使用されるのか。
[RQ2]ミームは異なる意見を持つコミュニティ内の使用過程において、どのような特徴があるか。

(2) 研究の背景と意義

インターネット空間のコミュニケーションでは、模倣・改編によって伝播されるデジタルアイテムであるミー

ムが、情報媒介の重要な役割を果たしている。しかし、このようなミームは「集団の形成と識別」[1]の機能を持ち、人々の「選択的接触」[2] 傾向を強化する。この結果として人々は、その「同質性(homophily)」[3]傾向—「似たもの同士」で寄り集まる特性—に沿って集団化する。同質化した集団の中でしか対話しせず、異なる意見を持つ者と対話しなくなる状況は、最終的に、討論とコンセンサスを基本とするデモクラシーの発達を阻害する恐れがあるSunstein(2001,7)[4]。実際、インターネット空間では、同質性に沿った集団分極化の現象が報告されている[5]。本研究では、選択的接触の触媒となり、このような分極を媒介すると目される、ミームというメディアに注目する。

また本稿では、同質化したコミュニティにおいて、同じルーツから改編、あるいは模倣された、つまりオリジナルアイテムと通底する政治的意味を搭載したミームの代表例を複数選択し、それぞれがどのように使用されたか、また、それらのミーム同士の関連についても着目する。本研究を通じて、従来のミーム研究を補足し、インターネット空間内の集団分極化の機序について、新たな知見をもたらすことを期待した。

(3) 研究の方法と結果

分析の中心としたのは政治スローガン”Make America Great Again”から生まれたTwitter空間のハッシュタグ#MAGAと、それに対抗的な#MAGABomberという二つのミームである。前者は現アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏と彼の支持者に多用されており、後者はあるトランプ支持者が起こした民主党関係者への爆弾送付事件の後、主にトランプ氏の批判者によって用いられている。本研究のデータ取得期間は2018年11月6日のアメリカ中間選挙の2週間前、且つ爆弾送付事件が報道された10月26日から11月3日までの9日間とし、この期間に発信されたで「#MAGA」と「#MAGABomber」を含む合計756,103件のツイートを抽出した。研究手法は主にネットワーク分析と内容分析である。RQ1を検証する手順としては、まず、同じオリジナルアイテムを共有するミームの使用者の連結関係を探るために、「#MAGA」と「#MAGABomber」の発信者のアカウントを、リツイート(retweet: RT)に基づきネットワーク分析を行った。更に、ネットワーク描画から得たクラスタを解釈し定義づけるために、アカウントにより発信された共起ミームの具体的内容を分析した。具体的な作業としては、クラスタにおけるミームの頻出状況を集計し、頻出ミームの意味と社会的文脈を調べた上で、テクスト分析を行った。RQ2を解明する手順としては、まず、RQ1を分析する段階で検証されたクラスタにおけるミーム間の共起ネットワークを描画し、相関関係を分析した。続いて、共起したミームの特徴を質的に分析した。

分析結果を以下に記す。RQ1に対する回答として、「異なるコミュニティにおいて、同じオリジナルアイテムを有するミームは、コミュニティの異なる主張を示すために使用されている」ことが明らかとなった。また、「対立するコミュニティにおいて、それらのミームは、対立する意味を表す」こと、それによってミームが同質性を媒介すると結論づけた。更に、RQ2に対する回答としては、「異なる意見を持つコミュニティの中に、同じ意味と内容を表すミームは、相互的に共起する現象がある」、即ち、各同質化したコミュニティ内部においては、対立する他の意見・傾向を含めるミームは使われず、同じような意見・傾向を持つミームに偏っており、またそれらを複数併用することも観察した。

▼#MAGAクラスタにおけるミーム共起ネットワーク全体図

▼#MAGABomberクラスタにおけるミーム共起ネットワーク全体図

(4) 考察とまとめ

本研究では、ツイッター上での議論の分析を通して、ミームが人々の政治的同質性を媒介する状況を検証した。

この成果は、従来の研究成果に加えて、二つの新しい議論を提示したと言える。第一に、ミーム自身自体も同質性を持つということである。同一の政治的主張を持つコミュニティ内の構成員は、類似したミームを使用する傾向が見られる。その結果、類似したミームが同時に出現し、コミュニティ内の議論がさらに画一化する傾向がある。第二に、ミームに搭載された情報は人間の同質性を媒介するだけではなく、対立の発生にも寄与するということである。

以上の二つの成果によって、従来の研究では見過ごされてきたミームの新たな性質を提示し、既存の研究を補完することができたと考える。また、本研究により、政治的参与のツールとしてのミームは、ユーモアに富んだ単なる流行物として捉えるのではなく、有意な議論を妨害する可能性も考慮しなければならない、ということが改めて示唆された。

参考文献

[1] Nissenbaum, Asaf, and Limor Shifman. “Internet memes as contested cultural capital: The case of 4chan’s/b/board.” New Media & Society 19.4 (2017): 483-501. Annual review of sociology 27.1 (2001):415-444.

[2] Festinger, Leon. “A theory of social comparison processes.” Human relations, 7.2 (1954): 117-140.

[3] McPherson, Miller, Lynn Smith-Lovin, and James M. Cook. “Birds of a feather: Homophily in social networks.”

[4] Sunstein, Cass R. Echo chambers: Bush v. Gore, impeachment, and beyond. Princeton, NJ: Princeton University Press, (2001). 

[5] Conover, Michael, et al. “Political polarization on twitter.” Icwsm133 (2011): 89-96.

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