うつ病に関する日本全国紙報道のフレーム分析〜朝日新聞と読売新聞を対象に

本ラボを修了した、早稲田大学大学院 政治学研究科ジャーナリズムコース 修士課程修了生の論文概要書です。

 1990年代後半から、日本において景気不況に伴ってうつ病患者と自殺者数が急増した。うつ病は日本社会では深刻的な社会問題となっている。
 健康問題において、責任を個人に帰属するか社会に帰属するかという論争がある(Wikler,2002)。アメリカでは健康は個人の責任であるという考えが根強いと批判されているが(Dorfmanetal.,2005)、日本では2000年の電通裁判によって、過労といううつ病の社会因が初めて法的に認められた。その後、うつ病問題を解決するため、行政は「心の健康」をめぐる法令整備や予算投入、企業は労働者のメンタルヘルスに関する取り組みを実施した(山田,2008)。しかしながら、このようなうつ病問題解決策は、司法上で認められている労働要因を抜け落ちてしまう懸念が示している。しかし、責任をいかに正確に分配するかが、うつ病問題解決におけるキーファクターであると考えられる(Brickman,1982)。
 メディアフレームは社会問題の責任を定義することができ、人々の責任帰属に関する認知に影響を及ぼすと考えられる(Entman,1993;Iyengar,1991)。それに新聞メディアは日本人に対して健康問題の主な情報源の一つとなっているため、どのようにフレームを用い、責任帰属の問題を構築することを明らかにすることが重要だと考えられる。
 本研究の目的は日本におけるうつ病報道のフレームを明らかにすることである。日本のうつ病報道を考察するため、日本の全国紙である「朝日新聞」と「読売新聞」を分析対象にして、量的分析で1980年から2018年までの39年間の報道のフレームを考察した。アメリカと中国でのうつ病報道と比べた上、日本のうつ病報道におけるフレームの特徴を明らかにした。
 内容分析を行った結果、まず、朝日新聞と読売新聞ではエピソード型フレームとテーマ型フレームが顕著的な差が見られなかったので、日本の新聞メディアでは両者がほぼ同じ程度で使われていると推測した。
 また責任帰属の見解については、個人責任フレームと社会責任フレームが朝日新聞と読売新聞において構築されていたことが見られる。そして社会責任フレームが多いと示され、つまり、日本の新聞メディアはうつ病の責任を社会に帰属し、社会によって解決されるべきだと報じていることが多いと推測した。
 最後に、1980年から2018年までの39年間にわたるうつ病報道の時系列分析によって、うつ病の報道フレームは個人と社会責任フレームが併存していた状態から、徐々に社会責任フレームが独占している状態へと変化していたことがわかった。
 以上、本研究より日本のうつ病報道ではエピソード型フレームとテーマ型フレームが偏重なし使われ、個人責任フレームより社会責任フレームが多いさらにというフレームの特徴が確認された。これらの結果のもとに、日本の新聞報道は人々が社会の構造的欠陥に対して注意を喚起することができる一方、単純化された病因論は、本当にうつ病の解決に寄与しているかという懸念が残される。
 本研究はフレームの構築過程に関する研究であり、実際に読者のうつ病に対する責任帰属の認知は、メディアフレームにどのように影響されているのか心理実験で検証することが必要である。

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