日本国内のメディアと外国人労働者受け入れに対する意識の関係〜改正出入国管理法案の可決後の動向

早稲田大学政治経済学部ゼミ生の卒業論文概要書です。

Author: K.D. (2020年3月卒業)

概要

 本稿の目的は、日本におけるメディアの報道が人々の外国人労働者、及びその受け入れに対する意識にどのような影響を与えるのかを明らかにすることである。

 日本国内に在留する外国人はかつてないペースで増加しており、毎年過去最高値を更新している。このような状況の中、少子高齢化による人手不足を背景に政府はさらなる外国人労働者受け入れの方針を打ち出している。そして、この政府の方針を最も明確にした出来事が2018年11月の改正出入国管理法案の衆議院通過である。法案通過前後には、様々な媒体で過去に類を見ない程度の、人々の外国人労働者、及びその受け入れに対する関心度の高さが観察された。本項では、外国人受け入れに関して新しい局面に突入した日本の外国人労働者及び、その受け入れに対する意識とそれを規定する要因がメディアである可能性を明らかにした。

 本稿では、人々がメディアの情報を受け取り、影響を受け実際に行動を起こすまでの流れを示したBecker et al (1975)のメディア効果モデルに倣い、人々がメディアを通して外国人労働者、及びその受け入れに関する情報を受け取り、外国人労働者、及びその受け入れに対する意識を形成するまでの間には、メディアの提供する情報をもとに受け手がそのトピックに関心を持つこと、トピックに関心を持った受け手が情報を検討した上でトピックに対する自身の意識を決定すること、の2段階のプロセスがあると仮定した。

 まず、第一段階のメディアの提供する外国人労働者に関する情報が受け手のトピックへの関心に影響を与えることを検証するために、新聞メディアを原因となる変数、Google Trendsの「外国人労働者」というワードの注目度とTwitter上でのツイート数を効果となる変数とすることで相関関係を分析し、因果関係の推定を試みた。結果、この2組の変数には因果関係を推定するのに十分な根拠があると明らかになった。

 次に、第二段階のトピックに関心を持った受け手が情報を検討した上でトピックに対する自身の意識を決定することを検証するために、Google Trendsが表示した「外国人労働者」の注目度とTwitter上でのツイート数を原因となる変数に、Twitter上の「外国人労働者」を含むツイートを外国人労働者への意識によって分類した各項目の割合を効果となる変数に設定して相関関係を分析し、因果関係の推定を試みた。結果、どの組み合わせにおいても強い相関は見られず、因果関係の推定を行うことはできなかった。しかし、一部の組み合わせにおいてはさらにデータ数を増やすことによって、相関関係と因果関係を確かめることができる可能性があることが明らかになった。 以上のように本稿では、外国人労働者に関するメディアの報道が人々のトピックに対する関心に影響を与えることを明らかにした一方で、人々のトピックに対する関心の度合いがトピックに対する意識に影響を与えていることを証明するには至らなかった。しかし、人々のトピックに対する関心の度合いがトピックに対する人々の意識に影響を与える可能性は残されており一部の変数の組み合わせではデータ数を増やせば因果関係を証明することは十分に可能である。本稿は、近年日本国内で盛り上がる外国人労働者受け入れをテーマにメディアと受け手の関係について因果関係を明らかにた。そして、伝統的に提唱されてきたように、同トピックにおいてもメディアが社会の世論に影響を与える力とその責任を負っていることを明らかにした。

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