AI美空ひばりへの反応からみる、AIの娯楽的利用に関する日本社会のコモンセンス

早稲田大学政治経済学部ゼミ生の卒業論文概要書です。

Author: R.I. (2021年3月卒業)

概要

近年、AIは産業的な利用だけでなく娯楽的にも利用されるようになってきた。本研究では、2019年NHK紅白歌合戦でのAI美空ひばりの歌唱パフォーマンスへ反応を分析対象とし、批判的談話研究の手法を用いて、AIの娯楽的利用に関する大衆のコモンセンスを明らかにする。分析結果から、AIの娯楽的利用に関する大衆の反応として、「人間がAIより優れているという認識」と「美的欠点となった道徳的欠如への批判」が見られた。これらは、道徳的行為者の性質をAIが満たしていないこと、故人の権利を無視した演出と、故人の生前での経験による道徳的欠如に基づいて生まれている。これらの反応から、日本社会では、AI自体が持つ道徳性への言及よりも、AIを娯楽的に利用する際の利用方法とその作られ方が重視されることが分かった。これは、「ロボットに心がある」という芸術が受け入れられている文化との矛盾が生じているといえる。その原因として、道徳性を持つAIのフィクション内存在が許容されているという第1段階の上に、それ自体がフィクションであるという2段階のコモンセンスがあることが考えられる。これは、日本においてAIの娯楽的利用の是非を考えていくにあたって、欧米との差異を考える際に重要な視点であると考えられる。今後、ほかの事例も分析し、コモンセンスと文化の矛盾の原因を特定することで、日本社会におけるAIの娯楽的利用の障壁となる論点を明らかにする必要があるだろう。

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