ツイッターにおける意見分極化の実証的考察

本ラボを修了した、早稲田大学大学院 政治学研究科ジャーナリズムコース 修士課程修了生の論文概要書です。

ツイッターにおける意見分極化の実証的考察
―北海道胆振東部地震ブラックアウトに伴う議論を事例に

Author: C.〓(2019年3月修了)

研究目的

 近年普及したソーシャル・ネットワーク・サイト(Social Network Site: SNS)では、政治的意見がユーザーの主義主張によって極端に離れ、異なる集団間におけるコミュニケーションが無くなる「分極化(polarization)」の発生が指摘されている1。本研究は北海道胆振東部地震に伴う停電による、泊原発再稼働問題をめぐるSNSツイッターでの論争において、意見の分極化が発生する状況を考察することを目的とした。ツイッターにおける論争のネットワーク構造及び内容の特徴を明らかにし、SNSにおける熟議の可能性を検討した。

研究の背景と意義

 東日本大震災以降、原子力発電の是非をめぐる議論における意見の分極化が指摘されている2。政治学では、政治的意見が両極端に偏り、中庸が少なくなることを「分極化」と呼ぶ。本来、民主主義は充実した情報量と健全な論争を通じた意見の形成が求められ、多様な意見が溢れるメディア環境が構築されることが望ましい1。しかし、原発をめぐる論争は情報の偏りや議論空間の閉鎖性により、偏った意見を生み出し、民主主義に必要とされる、合理的な論争が害されている恐れがあるい34

 2018年9月6日、北海道胆振東部地震の影響で、北海道のほぼ全域が停電になる「ブラックアウト」と呼ばれる現象が起こった。この停電を受け、日本のウェブメディアでは「泊原発が動いていれば停電はなかった」とする原発再稼働論議が盛んに繰り広げられた。この中では、「地震が多発する日本では原発は危険だ」という反原発派による議論が主導していたそれまでの状況が一転し、原発推進派の「地震があるからこそ原発は必要だ」という新たなロジックが活況を呈した。そこで、本研究は北海道地震停電を事案とし、ツイッター上の論争状況を考察することで、SNSにおいて意見の分極化が発生しているか否か、どの陣営の議論が盛んに行われていたかを明らかにする。本研究では、SNSにおいて違う意見を持つ集団は自らの原発に対する意見や主義主張(原発反対/原発推進)によって議論が極端に乖離し、同質性を持つユーザーとしか接触しないことと定義した4。また、操作的にはネットワーク構造が集団ごとに両極に分離し、異なる陣営間のコミュニケーションが極めて少数もしくは反撃手段として使用されることで判断した。本事象の分析を通じ、新たに拡散された原発再稼働論議が日本のSNSで展開する仕組みを解明することを目的とした。

研究の方法と結果

 「ブラックアウト」が発生した2018年9月6日から9月20日まで二週間の、「原発」をキーワードとするツイートをTwitter Search APIにより収集し、1,404,615件のツイートを抽出した。ネットワーク分析によりリツートとメンション関係の可視化をまず行い、分極の存在を確認した。次に、内容分析のために有用性のない関係を回避するため、同一ユーザーに3回以上リツイートされるアカウントの上位25アカウントを特定し、プロフィールを分類した。さらに、25アカウントのリツイート数が500件以上のツイートを抽出してヒューマン・コーディングより内容分析を行った。メンション関係の内容分析においては、同集団内で言及する「内メンション」及び、異なる陣営が相互にメンションする「間メンション行為」のツイートに焦点を当て、分析を通じてそれぞれの役割を明らかにした。

考察と結論

 ネットワーク分析の結果、本事象をめぐるリツイート関係の論争では意見の分極化が確認され、<原発推進派>と<反原発派>、そして<中立派>の三つのコミュニティの存在が観察された【図1】。その一方、メンション関係においては、分極化は顕著とならず、3つのコミュニティにおいて互いにコミュニケーションが図られていた【図2】。しかし、同質性を持つ集団内部のメンションが大多数であり、異なる集団のメンション行為は主に異なる陣営に対する反論手段として使われていたことから、意見の分極化を媒介する機能を果たしていたと考えられる。

  また、分析対象とした論争においては、原発推進派が圧倒的に活発であった。さらに発言の内容分析により、原発推進派と反原発派の間には泊原発の再稼働問題をめぐり、全く異なる対立的な意見が確認できた。発言の特徴として、推進派は原発に対する科学的・専門的知識を持つアカウントによる感情的な発言が目立った一方、反原発派は大手メディアの記事などを引用し、自らブラックアウトの発生原因を論理的に検証することで、反論を行っている様子が顕著に観察された。さらに、極めて少数であった中立派は原発に対する推進と反対意見の双方に理解を示した。

本研究は、日本のSNSにおける論争構造の現状を把握すると同時にその内容について分析を行うことで、今後ツイッターでの熟議の可能性と信頼性を向上させるべく改善の手掛かりを提示できたと考える。

図1:北海道胆振東部地震ブラックアウトにおけるリツイート関係ネットワーク図

図2:

【参考文献・脚注】

1Sustein, C.R. Republic.com 2.0, Princeton University Press(2007).

小川祐樹, 山本仁志, 宮田加久子「ツイッターにおける意見の多数派認知とパーソナルネットワークの同質性が発言に与える影響」,『人工知能学会論文誌』29巻5号F(2014).

Pariser, E. The Filter Bubble: What the Internet Is Hiding From You,Penguin(2011).

4  Sunstein, C.R., The law of group polarization, Journal of political philosophy, vol. 10, no. 2, 175–195 (2002).

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