日本人の移民に対するフレームと彼らの属性

早稲田大学政治経済学部ゼミ生の卒業論文概要書です。

日本人の移民に対するフレームと彼らの属性
―誰がどのように移民を批評するのか―

Author: N.K. (2019年3月卒)

研究目的

様々な事情から居住地を変える移民は世界中に存在する。そして、移民は移住先の社会の中で多様な側面で認知され、話題にされる。しかし、その取り上げられ方は移住先の社会、人々の状況によって大きく異なることが予測される。本稿では、どのような属性を持つ日本人が、移民をどういった存在として認知し話題にしているかを、Twitter上の投稿やプロフィール情報を対象に明らかにした。結論としてはまず、日本人は多様なフレームで移民を認知しているが、概ねネガティブな評価であることが明らかになった。またその中でも、つながりが強く愛国的な思想を持つコミュニティに属する日本人ほど移民にネガティブな評価をすることも明らかになった。

研究の背景

まず、移民がどのように認知されるかについては、日本人は移民と犯罪を強く関連づけることを明らかにした研究がある(Simon & Sikich, 2007)。次に、移民を認知する側の人々が持つ属性については、愛国主義的なイデオロギーは排外主義に対して影響を与えるという結果がある(濱田, 2016)。また、排外主義的な運動へ積極的に参加する人々の参加要因として承認欲求を挙げる考察もある(安田, 2012)。

以上の先行研究を踏まえ3つの仮説を設定した。1つ目は、日本人は主に犯罪というフレームで移民を認知し、全体的に移民をネガティブなものとして評価しているとする説である。2つ目は、移民に対してネガティブな評価をする日本人は、愛国的な思想を持つとする説である。3つ目は、移民に対してネガティブな評価をする愛国的な人々は、賛同する者同士での結びつきが強いとする説である。これらの仮説を検証することで、ソーシャルメディア上でどのような日本人が、どの種類のフレームを用いて移民を自発的に語っているかが明らかになる。

研究の方法と結果

研究方法については、収集したTwitterデータを用いた内容分析とネットワーク分析を採用した。Twitterデータとは本文に「移民」を含むツイートと、そのツイートを投稿したユーザーのid、プロフィール情報である。データは、TwitterAPIを使ってPythonで144,914件収集した。その中で、単純無作為抽出によって選ばれた1,000件を分析対象とした。

まず、内容分析では、ツイートを8つのフレームに分類し、移民に対しての評価をポジティブ、ネガティブ、どちらでもないの3つに分類した。あわせてフレームの中でポジティブ、ネガティブの評価が顕著だった4つのフレームに含まれるツイートの頻出語を確認した。さらに、3つの評価分類ごとにツイートのユーザーのプロフィールに登場する特徴語を対応分析で明らかにしそれぞれの「愛国度」を確かめた。

次に、ネットワーク分析では、ユーザーのフォロー関係を有向グラフとして算出し、コミュニティの検出を行った。そしてコミュニティごとのネットワークの密度を算出し、つながりの強さを確認した。最後に、コミュニティごとのプロフィールを対応分析し「愛国度」を確かめたうえで、つながりの強さとの関連を明らかにした。

結果について、まずフレームの分類に関しては、犯罪のフレームは支配的ではなかった。しかし、移民に対してネガティブな評価をしていたツイートは全体の65 %を計測した。ネガティブな評価の割合が多かったのは、フレームの中で「犯罪・治安」と「領土」の2つであり、ポジティブな評価の割合は「スポーツ」と「文化・アイデンティティ」が多かった。特定のツイートの頻出語については、「スポーツ」はサッカー、「文化・アイデンティティ」は共生の視点、「犯罪・治安」は文字通りの犯罪、「領土」は特定の国の関連を想起するものが確認できた。

次に、ユーザープロフィールの対応分析では、ネガティブな評価をしたグループで「日本」、「日本人」といった語を観測した(図1参照)。最後に、ネットワーク分析に関係する結果については、まず算出したグラフは主要な5つのコミュニティに分類ができた。そして、対応分析によって「日本」や「日本人」といった語を、ネガティブな評価の割合が高かった3つのコミュニティで観測し(図2参照)、それら3つのコミュニティはネットワーク密度も高い傾向にあることが分かった。

考察と結論

考察では、導かれた結果から3つの仮説が概ね支持されたことを立証した。まず1つ目の仮説については、犯罪が移民を認知する主要なフレームとはいえないが、全体的にネガティブな評価は下しており部分的に支持できるものであるとした。また、Mughan & Paxton(2006)では反移民感情の要素とされた文化的なフレームが、ポジティブに働くことがあることも示唆した。

2つ目の仮説についてもある程度支持できるとみなした。理由としては、移民にネガティブな評価をしたグループの特徴語では「日本」、「日本人」といった語彙が観測され、濱田(2016)が定義した「愛国度」を測る指標に照らしてもネガティブな評価のグループは十分に愛国的であったためである。

3つ目の仮説についても同様にある程度支持できるとした。理由としては、コミュニティごとの対応分析で愛国的と十分にみなすことができたコミュニティにおいてネットワーク密度が相対的に高かったためである。

 最後に、研究の課題としては、分析対象としたデータの少なさが挙げられる。機械学習によるコーディングなどで、分析対象を拡大することでより正確な結論が導けることが予想される。しかし、本稿で日本人の移民の捉え方などがある程度明らかになり、Twitter上などで移民を話題にする際の提言が導けたことは意義がある。

【参考文献・脚注】

濱田国佑. (2016). 排外意識と脅威認知との関連の時点間比較. 現代日本におけるナショナリズムと政治時点国際比較による実証研究 JSPS 科研
費基盤研究(B)成果報告書, 49-61.

Simon, R. J., Sikich, K. W., & Simon, R. (2007). Public Attitudes toward Immigrants and Immigration Polices across Seven Nations.

The International Migration Review, 41(4), 956–962.

安田浩一. (2012).『ネットと愛国: 在特会の「闇」を追いかけて』講談社.

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