本ラボを修了した、早稲田大学大学院 政治学研究科ジャーナリズムコース 修士課程修了生の論文概要書です。
Author: M.K. (2020年3月修了)
概要
私たちの身の回りにある科学技術は、さまざまなアクターによる多面的な議論のプロセスを経て社会に浸透している。こうした「科学技術ガバナンス」と呼ばれる議論のプロセスを主導するのは誰なのだろうか。本研究では複数の科学技術イシューを対象に、国会における政策議論と新聞における報道議論の様相を探索的に分析し、統計的因果推論により相互作用を推定する。
分析に際しては、(1)政策議論における科学技術イシューへの注目度推移パターンはいくつかの類型に分けられるのではないか、(2)それらの類型はそれぞれ特定の科学技術分野に集中するのではないか、(3)どの類型に属する科学技術イシューかにより政策と報道のどちらが議論を主導するアクターとなるか決まってくるのではないか、という3つの問いを立てた。
これを踏まえ、51個の科学技術イシューで国会会議録から1947年から2019年に至るまでの時系列データを取得してグラフを描いたところ、注目度推移のパターンはその波形から〈出来事型〉〈検討継続型〉〈長期型〉の3つに類型化できた。この3類型でそれぞれ1つのイシューを選び、イベント時系列を把握したうえで、新聞データベースが利用可能な1986年から2019年までについて新聞と国会の時系列データでGranger因果推定を行った。この結果、〈出来事型〉のイシュー「バイオテクノロジー」では新聞から国会に向かう因果性が、〈検討継続型〉のイシュー「バイオマス」では国会から新聞に向かう因果性が、〈長期型〉のイシュー「核燃料サイクル」では一部の期間で国会から新聞に向かう因果性が認められた。また、3つの類型は特定の科学技術分野に偏って出現する傾向が見られた。
こうした結果から、国会における科学技術イシューへの注目度は科学技術の分野によって異なる推移パターンを取る傾向があるとわかった。また、この推移パターンがどのようなものかによって国会と新聞のどちらが科学技術イシューを主導するアクターとなるか決まる可能性が示唆された。本研究は、特定の科学技術イシューの注目度推移が予測できる可能性を示したという意味で大きな意義を持つ。一方、科学技術ガバナンスにおけるその重要性が示唆された行政そして新聞の相互作用の検証は、今後の課題となった。