「『見てもいないイベント』を消費するイベント」から考察する現代日本におけるメディアシニシズム〜「24時間テレビ」を題材に

早稲田大学政治経済学部ゼミ生の卒業論文概要書です。

Author: K.M. (2020年3月卒業)

概要

本稿は、現代メディアシニシズムの発生要因と発達過程について、「視聴していないにも関わらずテレビ番組に対して抱くネガティブな意見」を分析することで明らかにした。まず、これまでメディアシニシズムについては、Cappella & Jamieson(1996.1997)を中心に1990年代半ばから研究が進められてきた。彼らによれば、自身の政策を進めるため意図的に政治を動かそうと試み、対するメディアは金銭的利益と報道義務を叶えるべく報道をしてきた。しかし双方の利己的な行動は市民に伝わったことで生まれた不信感が政治シニシズムを生んだという。さらに、Dekker & Meijerink(2012, Political cynicism: Conceptualization, operationalization, and explanation)は、政治シニシズムは不信、懐疑、無関心とも異なり、「将来の行為までも見通し、全てを知っていると思い込む態度」であると述べている。これらの論述に倣い、李光鎬(2019, 敵対的メディア認知とメディアシニシズム)はメディアシニシズムを「報道の行為主体、報道機関、報道の制度全体が、道徳性と応力を欠いているという信念から形成された、報道メディアをさげすみ、あざける態度」と定義している。しかし、あくまでこの定義はCappella & Jamieson、Dekker & Meijerinkの先行研究に倣い、韓国社会におけるメディアシニシズムを分析した研究であり、現代日本に適応しているとはいえない。

そこで本項において、日本テレビが毎年放送するチャリティー番組「24時間テレビ」に関するTwitterの発言を質的・計量的に分析することで、現代日本におけるメディアシニシズムの発生要因と発達過程を明らかにした。まず質的分析においては、収集したデータを基に作られたヒューマンコーディングマニュアルに従い、ツイートを数段階に分けて分類し、特徴を分析した。続けて同データをKH Coderを用いて計量的に言説分析した。具体的には頻出語分析、階層的クラスター分析、共起ネットワーク図の作成である。また、多数のリツイートを記録し話題となったツイートと、24時間テレビを痛烈に批判し反響を呼んだタレント、デーブ・スペクター氏の関連ツイートをだけを抽出し、同様の質的を別々に行った。

以上の研究を通じ、現代メディアシニシズムの要因は「自身とメディア間におけるフレームの落差」から感じる不信感であると明らかにした。特にメディアが発信する情報が現実離れしていて「ヤラセ」感が漂う場合、もしくは実情を隠しメディアにとって望ましいフレームを演出しようと試みても、実態が認知されてしまう場合が挙げられる。そこで発生した個人内における冷笑性は、直球の批判でなく「ネタ」的な面白みを含み、社会問題に関連付けて共有するとさらに拡大する傾向にある。

今後の展望としては、さらにあらゆるテレビ番組、そして各メディアにおける現代メディアシニシズム研究が望ましい。なぜなら本研究における分析は「以前から冷笑的視点を持たれていた24時間テレビ」が題材であり、批判内容も未視聴/視聴不明者に限定されているため、他のケースで適用できる場合が少ないと考えられるからだ。今後、本稿で留保せざるを得なかった限界を突破し、情報社会においてますます発展していくメディアシニシズムに関する研究によって普遍的な定義が導かれる事を期待する。

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