ライブイベントにおける「コール」にみられる規律形成過程

早稲田大学政治経済学部ゼミ生の卒業論文概要書です。

Author: O.G. (2020年3月卒業)

研究の概要

  • 研究目的

この世には無数のコミュニティが存在し,それら全てには多かれ少なかれ何らかのルールがある.とりわけアイドルなどのファンコミュニティはルールという点においては厳格であり,各コミュニティは独自のルールを作りそれを順守することでそのコミュニティの個性や“推し”への忠誠心の強さを表現する.そのようなルールは「誰に」作られ,伝播していくのか.本研究ではコミュニティルールの一例であるアイドルライブにおける「コール」を対象に,ファンコミュニティにおける規律形成過程を観察することでルールの形成・伝播過程を明らかにし,今後のコミュニティ研究・ファンダム研究に寄与することを目的とする.

  • 研究の背景

金子・玉村・宮垣(2009)によると,社会学者マッキーヴァーはコミュニティの定義を一定地域における共同生活の領域,生活空間であるとし,またその要件について互いの間に共通の関心や社会意識がみられることであるとした.本稿では,そのようなコミュニティの中で独自にルールが形成・順守されているファンコミュニティを研究対象として取り扱う.2003年の朝日新聞朝刊によれば,1970年代に出現し始めた「親衛隊」と呼ばれるファンコミュニティはファンや「隊員」たちを独自の帰属に基づき統率していた.今やそのような親衛隊は姿を消したがファンコミュニティは依然健在であり,その行動範囲はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の台頭によりリアルからオンラインに至るまで広範囲に渡っている.SNSによりインターネットコミュニケーションが普及した現在,かつて同様に今も残り続けるファンルールは「誰に」作られ,伝播していくのか.これを明らかにするため,本稿では2つの仮説の検証を行った.

[仮説1]:「コール」の形成・伝播は次数中心性の高いユーザーによってなされる.

[仮説2]:「ライブ型コンテンツ」では演者側が,「媒体型コンテンツ」では観客側が「コール」の形成に深く関与する.

これらの仮説の検証を通して,SNS上のファンコミュニティの現状を分析し,「コール」の形成・伝播過程を探る.

  • 研究の方法と結果

YouTubeとTwitterを対象に,YouTube上のユーザーコメント分析,Twitter上のツイート分析,Twitter上のリツイート・被リツイート関係の分析,以上の3つの分析を行った.まずYouTubeについては,メジャーアイドル「ももいろクローバーZ」,マイナーアイドル「FES☆TIVE」,メジャーアニメ声優「アイドルマスター」の3コンテンツにおける,それぞれのYouTube上のコール動画ないしライブ動画におけるユーザーコメントを扱い,メジャーとマイナーの規模間,そしてアイドルとアニメ声優のコンテンツ間での「コール」言説の違いを分析した.その結果,感情表現的言説の多い「アイマス」,コール言説の多い「FES☆TIVE」,感情・コール言説がバランス良く混在し,結果として言説の特徴が少ない「ももクロ」,というように三者が分化していることが分かった.次にTwitterでは,コールの一種である「ガチ恋口上」,メジャーアイドルグループ「乃木坂46」,そしてアニメ声優ライブイベント「Animelo Summer Live (以下,アニサマ)」,アイドルライブイベント「TOKYO IDOL FESTIVAL (以下,TIF)」について,それぞれ「ガチ恋口上」「乃木坂 コール」「アニサマ コール」「TIF コール」のキーワードを含むTwitter上のツイートについて言説分析及びネットワーク分析を行った.その結果,「ガチ恋口上」リツイートネットワークおよび「乃木坂 コール」リツイートネットワークから,コールはフォロワー数が1000人を超えるような次数中心性の高いアカウントによって伝播していることが分かった.また,「ガチ恋口上」ツイートと「アニサマ コール」ツイートから,「コール」形成には演者・観客の双方が関与することが分かった.加えて,「アニサマ コール」リツイートネットワークでは演者やメディアのような運営側アカウントのツイートの次数中心性が高く,「TIF コール」リツイートネットワークでは一般ユーザーのような観客側アカウントのツイートの次数中心性が高かった.

  • 考察と結論

「コール」の伝播はコミュニティ内の次数中心性の高いユーザーによりなされる一方,「コール」の形成には演者・観客の双方が関与する.どちらの関与度が高いかについてはコミュニティにより異なるが,本稿においてはアイドルコミュニティでは演者が,アニメコミュニティでは観客が「コール」形成に高く貢献することが示された.さらに,そのような異なるコンテンツの間において,アイドルファンは現場志向的,アニメ声優ファンは媒体志向的であり,さらに前者は受動的な「共有型」ユーザーである一方で,後者は能動的な「発信型」ユーザーであることが分かった.

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