早稲田大学政治経済学部ゼミ生の卒業論文概要書です。
Author: S.D. (2020年3月卒業)
概要
本稿では日本においてヘイトスピーチが蔓延している現状への問題意識から、ヘイトスピーチが発生するメカニズムを解き明かすことを目的として研究を行った。世間の注目を集めた街頭でのヘイトデモではなく、あまり焦点の当たらないインターネット上のヘイトスピーチを対象に、メディア報道との関係性について分析した。トピックは特に多くのヘイトスピーチが集まる外国人による犯罪の報道に限定した。「外国人犯罪の報道がヘイトスピーチにどのような影響を及ぼすか」というリサーチクエスチョンから「マスメディアによる外国人犯罪報道において、外国人であることの強調がネット上でヘイトスピーチを引き起こす」という仮説を設定し、メディアによる外国人犯罪報道とそれに対する反応としてのヘイトスピーチの関係性を研究した。その対象として、影響力が非常に大きいYahoo!ニュース及びにそのコメントを選択し、メディアによる外国人の表象の違いによるヘイトコメントの抽出及びにヘイトスピーチの多寡を調査した。
研究方法としては、まずYahoo!ニュースに掲載された外国人が容疑者となった犯罪について関連する記事とそれに対するコメントを複数の事例において収集した。収集したデータは容疑者が外国人であることをタイトル、あるいは本文における表象によって強調した記事と国籍を強調していない記事に大別した。また、それに対するコメントも2つのグループに分け、KHcoderを用いてヘイトコメントの抽出を試みた。しかし、あからさまなヘイトスピーチはYahooの規制強化もあり、あまり抽出することができなかった。2つのグループによる差は多少見られたものの、大きなものではなかった。続いて、KHcoderを用いて共起ネットワークを作成した。国籍を強調した記事に対するコメントでは、国籍や民族を表すワードがネガティブなワードと結びついており、ヘイトスピーチの存在を示唆する結果となった。また、個々のコメントについてヒューマンコーディングを行った。基準を設け、暗喩的なヘイトスピーチも含め、ヘイトが含まれると判断したコメントとそうでないコメントに分類した。その結果、国籍を強調した記事とそうでない記事に対するコメントではすべての事例において国籍を強調した記事に対するコメントの方がヘイトスピーチの含まれる割合が高くなった。
分析することのできた事例が少なく、仮説を証明するに足る数字を提示することは不可能であるが、頻出語、共起ネットワークおよびヒューマンコーディングの結果は仮説に沿ったものであり、仮説が支持されるべき結果を示した。これは報道機関による報道がネット上においてヘイトスピーチを生み出していることを示唆するものであり、ヘイトスピーチが発生するメカニズムを解明する上で意義のあることである。また、多くの事例で分析を行った、より精度の高い研究が今後において求められる。